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レディ・ジョーカー                              ☆評価
[著者] 高村 薫
[出版] 毎日新聞社
[内容]

  人質は350万キロリットルのビールだ―
業界のガリバー・日之出麦酒を狙った未曾有の企業テロは、なぜ起こったか。
男たちを呑み込む闇社会の凄絶な営みと暴力を描いて、いま、人間存在の深淵を覗く、
前人未到の物語が始まる。

[感想]
  たしかに面白いんだけど読むのに疲れた。上・下巻に分かれてこの枚数あった割には
消化不良気味な感じは否めない。犯人、警察、報道関係者、被害者側の企業、闇の組織
と複雑に関わりあった中での攻防劇がリアルに描かれている。又、それぞれの駆け引きが
徐々に浮き彫りになっていく様は、読者を惹きつけて飽きさせない要素を持っている。
それぞれ人間の心理描写が冗長すぎるほどリアルに描かれていることは、ある意味うざっ
たく感じたのは私だけであろうか。

 +++update:2001/08/06+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


燃える地の果てに                              ☆評価
[著者] 逢坂 剛
[出版] 文芸春秋
[内容]

  1996年1月。 イギリス人の美人ギタリスト、ファラオナとともにスペインの寒村を訪れた
わたしは、ちょうど三十年前に起きたいまわしい事件の記憶と遭遇することになる。
失われた核爆弾は、ほんとうに引き上げられたのか。
それとも、だれかが爆発させるのを待って、まだどこかに眠っているのか。
現代史の謎に挑む、迫真のアドベンチャー・ミステリー。

[感想]
  物語は過去と現代が平行して展開していく常勝の手法を用いて書かれています。
スペイン上空で核を搭載中の米軍機が衝突すると言う、本当にあったら恐ろしいストーリー
になっていますが、この三十年前に起きた出来事がこの物語のメインストーリです。
そこでの、ギターリスト達と、米軍、スパイ等の息も尽かさぬ冒険活劇が、読者を飽きさせず
に見事に描かれています。最後に過去と現代の謎が解き明かされ、意外な結末を用意
しているところもさすがといえます。なかなか読み応えのある1冊でした。

 +++update:2001/08/09+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


バトル・ロワイアル                              ☆評価10
[著者] 高見 広春
[出版] 太田出版
[内容]

  西暦1997年、東洋の全体主義国家、大東亜共和国。
この国では毎年、全国の中学3年生を対象に任意の50クラスを選び、国防上必要な戦闘
シミュレーションと称する殺人ゲーム、“プログラム”を行なっていた。
ゲームはクラスごとに実施、生徒たちは与えられた武器で互いに殺しあい、最後に残った
一人だけは家に帰ることができる。
香川県城岩町立城岩中学校3年B組の七原秋也ら生徒42人は、夜のうちに修学旅行の
バスごと政府に拉致され、高松市沖の小さな島に連行された。
催涙ガスによる眠りから覚めた秋也たちに、坂持金発と名乗る政府の役人が、“プログラム”
の開始を告げる。
ゲームの中に投げ込まれた少年、少女たちは、さまざまに行動する。
殺す者、殺せない者、自殺をはかる者、狂う者。仲間をつくる者、孤独になる者。
信じることができない者、なお信じようとする者。愛する気持ちと不信の交錯、そして流血…。
ギリギリの状況における少年、少女たちの絶望的な青春を描いた問答無用、凶悪無比の
デッド&ポップなデス・ゲーム小説。

[感想]
  最初、はっきり言ってそれほど期待していなかった。だが、これほどの内容とは...
驚愕の恐怖を感じる、超リアルなファンタジーノベル。まるで一昔前に流行ったゲームブック
のように、ついつい熱中してしまう面白さも兼ね備えている。
ただ一方的に小説を読まされているだけなのに、まるで自分が主人公になったようなゲーム
感覚が味わえる。アドベンチャーゲームの世界を文字を通して体験しているような感じ。

  中学生が殺しあうと言う衝撃的な内容が倫理上問題があるという観点から、最近映画化
されたがR指定となってしまった。精神的に未成熟な年齢層が見た場合に、まるでゲームの
世界と現実とを混同して精神を洗脳されてしまい、犯罪に繋がる恐れがある等と考える人達は
少なからずいるかもしれない。昨今、海外でも暴力シーンを含む映画、テレビゲーム等は
子供の教育上R指定等で規制する傾向にある。凶悪犯罪の低年齢層化の例もある。

  だが、この小説を読んだ場合、現実に悪い影響がでてしまうと言うより、多くの人が生きて
いる幸せを考えるきっかけになるのではないかと思う。世の中には不幸にして、死を望んで
いないにもかかわらず、死から逃れられない人もいる。これを運命という一言で簡単に
かたずけてしまうのは、あまりにも寂しい。当著書が生きることの尊さ、喜びを改めて読者
に問い掛けることを狙いとして、あえて強烈な恐怖を全面的に表現にしている作品だという
一読者としての解釈は不自然であろうか。読者によって感じかたは千差万別であると思う。
その点で評価は各個人により、賛否両論に分かれる作品であることは確かだ。

リアリティの点で言えば、舞台となる国の名が大東亜帝国と、なぜか偽名(?)を使っている
が、大日本帝国とストレートに表現したほうが、より一層リアルになったと思う。
長々と訳のわからないことを書いてしまったが、この著書は衝撃の問題作であり、冒険ホラー
小説の傑作だと思う。

 +++update:2001/08/12+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


亡国のイージス                               ☆評価10
[著者] 福井 晴敏
[出版] 講談社
[内容]

  自らの掟に従い、15歳で父親を手にかけた少年。
一人息子を国家に惨殺され、それまでの人生をなげうち鬼となった男。
祖国に絶望して叛逆の牙をむく、孤独な北朝鮮工作員。
男たちの底深い情念が最新のシステム護衛艦を暴走させ、一億二千万の民を擁する
国家がなす術もなく立ちつくす。圧倒的筆力が描き出す、慟哭する魂の航路。

[感想]
  圧巻です。これほど読み応えがある本はそんなに無いでしょう。確かにページ数は、多い
ですが内容が伴っているので納得できます。ジャンルで言えば、軍事サスペンスの傑作だと
思います。護衛艦、銃器類、ミサイル等、軍事マニアを唸らす、数々の武器。自衛隊の内部
事情を巧みに描いたストーリー、危機感に欠ける日本の防衛政策を問うメッセージ色溢れる
内容となっています。自衛隊とテロリストの息もつかせぬ攻防もさることながら、人それぞれ
の感情を精細に書き上げる、執筆力はさすがです。物語に登場する男たちの生き様は、読者
の感情を揺るがし、涙腺が緩むことも避けられないほどの感動を与えてくれました。
心に残る素晴らしい一冊だと思います。

 +++update:2001/08/19+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


理由                                       ☆評価
[著者] 宮部 みゆき
[出版] 朝日新聞社
[内容]

  家が、家族が、そして人がだんだん壊れていく。
「一家四人殺し」はなぜ起こったか。
宮部みゆき待望の長編ミステリー。

[感想]
  裁判所による不動産の競売制度を題材に、そこに潜んでいる占有屋等の妨害工作の
実態や、そこに関わる人間たちの心理を精細に描いています。

又、マスコミによる関係者へのインタビュー形式で、事件の真相に迫っていく手法は長編
ミステリーとしては
新鮮でした。

バブル崩壊後の不動産売買にかかわるトラブルの問題を、わかりやすく提起しているのは
すばらしいですが、もう少しミステリー色を濃くしてもよかったのではないでしょうか。

裁判所による競売制度や占有屋等についての知識はほとんどなかったので、非常に勉強
になった一冊だと思います。

 +++update:2001/08/24+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


金田一少年の事件簿 殺戮のディープブルー        ☆評価
[著者] 天樹 征丸
[出版] 講談社
[内容]

  海底遺跡をめぐる凶悪テロ事件発生!南国の「遺跡島」で小龍(シャオロン)と再会した
金田一と美雪。しかし、そのホテルでテロ事件が発生、人質として巻き込まれてしまう。
狂気のゲーム、驚愕の結末!テロリストたちから逃れ、立てこもった金田一たち。
だが、安全に思えたその場所で、次々に人質が惨殺されていく。
襲われた金田一の運命は?テロリストを操る姿なき悪魔“キング・シーサー”の目的は
何なのか?そして
驚くべき正体とは!?明智警視の知略は人質たちを救うことができるのか。

[感想]
  安定した面白さ! このシリーズにハズレ無し! この作品は映画化もされたみたい
だけど、本格的な推理というよりはアクション要素が高いので、映画化も納得です。
又、今回もピリリと光る推理要素も健在で、結構楽しんで一気に読んでしまいました。
初めて上・下巻に分かれて発売されたのですが、読んでて飽きさせない内容となっていた
のは納得です。ノベルス初登場となる秀才キャラ明智警視の活躍も新鮮でした。


 +++update:2001/09/02+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


ガラスの麒麟                                 ☆評価
[著者] 加納 朋子
[出版] 講談社
[内容]

  第48回日本推理作家協会賞受賞。
「あたし殺されたの。もっと生きていたかったのに」通り魔に襲われた十七歳の女子高生が
遺した童話とは…。少女たちの不安定な心をこまやかに描く待望の連作ミステリー。

[感想]
  全6話からなる短編集みたいな小説です。その物語それぞれに繋がりがあって、最終的
に1つの結末に収束されていきます。作者の透明感溢れる感性により日常の世界がメルヘン
チックに描かれています。これは、実に斬新で幻想的な手法だと思いました

人は、誰でも善と悪の2つの顔をもっているのかもしれません。その心はガラス細工のように
もろくて、ふとしたことで壊れてしまう。まさにガラスの麒麟のように...
この無機質で矛盾に満ち溢れた、不安定な世界で生活している人間の心理が見事に描かれ
ています。

で、実際の感想はどうかと言うと、手法は新鮮で気に入っているのですが、やっぱり衝撃力が
弱く物足りない気がします。あっと驚く展開が欲しかったですね。
物語にでてくる日常会話は自然良いのですが...


 +++update:2001/09/03+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++