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ホワイトアウト                              ☆評価
[著者] 真保 裕一
[出版] 新潮社
[内容]

  日本最大の貯水量を誇るダムが乗っ取られた。人質は発電所員と下流域の市町村。
残された時間は24時間。同僚と亡き友の婚約者を救うべく、ダムに向かう主人公・富樫の
もう一つの、そして最大の敵は、絶え間なく降りしきる雪、雪、雪…。
吹雪に閉ざされ、堅牢な要塞と化したダムと厳寒期の雪山に展開するハードアクション・
サスペンス。

[感想]
  富樫のテロリスト達との壮絶なる死闘が、息を呑む緊迫感でリアルに描かれている、
アクション巨編です。さらに自然界に存在する雪という存在が、彼を絶対絶命の危機に
追い込んでいくのです。でも彼は諦めなかった。過去のある出来事のような後悔を繰り返
さないために...

綿密に計算されたテロ活動と、富樫の心の心理が精細に描かれています。
雪とガスにより視界が奪われ白い闇に包まれてしまう現象、、「ホワイトアウト」。
妄想では表現できないリアルな描写は、このような舞台設定を考えた作者の綿密な取材
活動の賜物でしょう。又、読者を飽きさせないストーリー展開は、アクション物の中でも傑作
に入ると思います。


 +++update:2001/09/07+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


そして粛清の扉を                           ☆評価
[著者] 黒武 洋
[出版] 新潮社
[内容]

一人の女教師が学校に血の戒厳令!卒業式前日、人質の生徒処刑が始まった。
一人、また一人…。もう誰も逃げられない―。周到な計画、警察との攻防。
強行突入か、説得か。タイムリミットが刻々と迫る。
TV生中継のなか、ついに教師は用意された身代金で、前代未聞の「ゲーム」を宣言した…。
第1回ホラーサスペンス大賞受賞作。

[感想]
なぬ〜、バトルロワイアルか?と思いきや、話が全く違いますのでご安心を。
ストーリー的には、バトルロワイアルの方が面白いんだけど、この作品はコンセプトが全く
違います。まず主人公が女教師です。うぬ〜お姉さまか?という期待はやめておいた方が
いいでしょう。普段は目立たない、でも心の芯の強い女性です。

主人公の亜矢子が、自ら悪に裁きを下すべく生徒達を次から次へと処刑していきます。
まさに、氷河のような心で機械作業のように、人間が意図も簡単に死んでゆく様は、痛快
というより、少々ブルーになります。ですが殺すにはそれなりの理由があったのです。
生徒達が行ってきた数々の罪、仕打ちに対して、亜矢子が心に多大な傷を負った末の
行動だったのです。その中のある重要なできごと、物語の冒頭にほんの少し描写されて
いるのですが、この描写が薄いが為に処刑の理由としては、少々弱い気がしました。

バトルロワイアルにも通じる、飽きさせないストーリー展開や、先生、生徒、警察、マスコミ
等の巧みな心理描写は、一読の価値は有る思います。特に、亜矢子が綿密に計画して
仕組んだ警察を陥れる巧妙な仕掛けの数々は、なかなか面白かったと思います。
でも、惜しいことにホラーサスペンス作品にある、背筋の凍る恐怖の伝わりが少々物足り
ない気がします。この点に関して言えばバトルロワイアルの方が上です。

日本の法制度では暗黙の中に埋もれている凶悪な少年犯罪事件に対して、被害者側への
配慮があまりにも御座なりにされており、加害者側が十分な刑罰も受けずに未成年という
だけで保守ばかりが目立ちました。そうした中、この物語の主人公を通して、腐りきった
世の中の法制度を痛烈に批判しています。


最近キレタ子供達が増えてきているとよく報道されています。その理由の一つとしては
日常生活の中で蓄積していったストレス等が原因なのかもしれません。又、この人間社会
に対しての先行きに絶望して生き甲斐を失った末の鬱憤からきているのかもしれません。
そうした中で作者は、この衝撃の問題作を通して社会に対して警告を告げているように
思います。

 +++update:2001/09/16+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

金田一少年の事件簿 上海魚人伝説殺人事件      ☆評価
[著者] 天樹 征丸
[出版] 講談社
[内容]

中国・上海の人魚観劇場(マーメイドホール)を訪れた金田一と美雪は、呪われた「魚人伝説」そのままの、悪夢のような殺人事件にまきこまれた。

[感想]
今回は、金田一少年がはるばる上海まで事件解決に出張するのです。
おや?、今回はそれほどインパクトなかったなあ。
ちょっと読み終わった後の爽快さというか、余韻が残らなかった。
ハラハラドキドキする展開がもうちょっと欲しかった。

まあ、相変わらず文章に振り仮名ふってあるので読みやすい。(そんなんどうでもええやんってか)
又、このシリーズは会話が楽しいのでスイスイ読めてしまいます。

今回は推理的には簡単な内容なので気楽に読めるというところですかね。
このシリーズの中では、わりと平凡な作品になっていると思うよ。

さて、次回はどんな作品に仕上げてくれるのか、楽しみです。
個人的には、次回作はバリバリの推理小説となって欲しいものです。次回作に期待しましょう。

+++update:2001/09/18+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

永遠の仔                                   ☆評価10
[著者] 天童 荒太
[出版] 幻冬舎
[内容]

再会は地獄への扉だった。
十七年前、霧の霊峰で少年たちが起こした聖なる事件が、今鮮やかに蘇る―。
連続殺人、放火、母の死…。無垢なる三つの魂に下された恐るべき審判は―。
山本周五郎賞受賞作から三年余。沈黙を破って放つ最高傑作ミステリー。

[感想]
原稿用紙2385枚の超大作です。読破するのにかなりの時間を費やしました。
でも、読み難いこともなく飽きずに最後まで読めました。これは嬉しい誤算でした。
読書に時間を費やすだけの価値ある作品だと思います。実際読み応え抜群で
感動も味わえました。

もちろん内容的には、幼児虐待、老人介護等の社会問題が丁寧に書き込まれて
いますので、「人が生きる」ということを深く考えさせられました。
ミステリーとしても秀逸で、最後の意外とも思える結末もスルメのような味わいがあり
深く余韻が残りました。

確かに幼少期の体験が深く人間形成に影響を与え、大人になっても心の奥底に
傷痕として潜んでいるのかもしれませんが、物語終盤の手紙に書かれていたように、
今生きていることを心から喜べることがどんなに幸せかを考えると、これからの未来を
どう生き抜くべきかの方が大事であり、それは、一人の人間に与えられた平等で自由
な権利と言えるのかもしれません。

このように本書に関する感想として捕らえましたが、個々によって感想もそれぞれで
又、それが個性で自然というものだと思います。
口先で言うように、そう簡単に出来る訳が無いとは思いますが、人は皆、夢、希望、
支えてくれる人に救いを求めるのは必然で、嘘偽りのない姿だと思います。
又、それによってさまざまな人に影響を与えるのも確かで、避ける必要もありません。
その出来事を自分なりに受け止めて、どう行動するかが問題だと思います。

未来には人それぞれ、異なったイベントが起こるでしょう。それは、さまざまな事象に
よって形成され、どう転ぶか誰も予測はできないと思います。
ひょっとしたら、運命と呼ばれる強制イベントが待ち受けているのかもしれません。
辛く悲しいイベントも起こるでしょう。でも、楽しいイベントが起きたときに笑って生きら
れれば、それも又、救われたと言えるのではないでしょうか・・・

+++update:2001/10/10+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

金田一少年の事件簿 雷祭殺人事件             ☆評価
[著者] 天樹 征丸
[出版] 講談社
[内容]

ある夏の日、元級友の秋絵の故郷を訪れた一と美雪は、雲場村に伝わる雷祭に参加することに。
そのさなか、殺人は起きた。
死体の上に置かれた何百、いや何千という数の空蝉(蝉の抜け殻)…。
まるで隠された悲しい秘密を象徴するかのように。

[感想]

メインの雷祭殺人事件の他に短編2話を含む、合計3話構成になっています。
本当に、このシリーズは赤川作品のようにすらすら読めてしまうのが不思議です。

◆雷祭殺人事件
この小説のメインです。肩がこらずにお気楽に楽しめます。
全体的には読者の期待にこたえようとして、前作から短期間でのリリースとなった為、
売りである綿密に仕組まれた盲点を突くトリックが、いつもと比べると精細さに欠ける
ような気がします。又、短編を無理やり詰め込もうとした為に、シナリオが安直になり
読み応えというか読書後の爽快感がいまいちでした。これは、執筆期間等の影響が
理由でああるかは分かりませんが、時間を欠けてでも捻りを加えて欲しかったです。

又、本来ならヒロインである筈の、朝木時雨の心理描写が深く掘り下げて書かれて
いない為に、事件の伏線がはっきりしていないことも原因しています。
なんか文句ばっかり書いているようですが、お気軽に楽しめるのは確かです。
それと、読む時間が節約できる利点も有るので、別に飽きることも無く読めました。

◆共犯者X
漫画版に収録されていた短編小説をおまけとして収録したものです。
交換殺人を身近なトリック?をつかって実現しています。
まあ、休憩の合間に読むのいいでしょう。(^_^)

◆迷い込んできた悪魔
この作品も、漫画版に収録されていた短編小説です。
いつもの通り、関係の無い第3者が犯人共思える行動で、読者を混乱させようとする常勝
手段を使用しています。でも、私は単細胞なのでまんまと罠にはまり、騙されてしまった
のが悔しいかぎりです。(^^;
短編ではどちらかと言えば、この作品の方が好きですね。


+++update:2001/10/13+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++