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黒い家                                    ☆評価
[著者] 貴志 祐介
[出版] 角川書店
[内容]

人はここまで悪になりきれるのか?人間存在の深部を襲う戦慄の恐怖。
巨大なモラルの崩壊に直面する日本。黒い家は来るべき破局の予兆なのか。
人間心理の恐ろしさを極限まで描いたノンストップ巨編。
第4回日本ホラー小説大賞受賞作。

[感想]
はっきり言ってこの作品は面白かったです。主人公は、生命保険会社に勤務して審査
担当みたいな設定なのですが、かなり保険会社の細かい内情まで書き込んであり勉強
になります。又、作品冒頭から起きるショッキングな出来事等、読者を引き付ける要素
も十分ですし、文章が素直で読みやすかったです。読んでいて飽きることも無かったので、
疲れずに読破できたという感じです。

保険金詐欺を扱った小説は多々ありますが、この作品では何気ない日常に潜む恐怖が
巧みに描かれることによって、よりリアルに感じとれます。この作品の中に『サイコパス』と
言う言葉が出てきますが、一見すると非現実的な世界のような気がしましたが、読み進め
るにつれて、ごく普通に日常生活を送っている人でも、心の中に潜んでいる深い傷までは、
周囲に人には分からないという点が、非常に怖いなと実感しました。

人の心の奥底までは、誰にも覗くことはできないと思いますが、何気ない行動の変化を
観察することによって、犯罪を未然に防ぐ自主防衛が大事だなという感想を抱きました。
ひょっとしたら、すぐ傍に危険が潜んでいて、それは不安定なバランスによって偶然保た
れているのかもしれませんし・・・

まあ、この著書がホラー小説と言うジャンルに当てはまるかと言うと、ちょっと疑問が残り
ますが、後半のドキドキする展開や絶妙な伏線の張り方等、サスペンスとしては秀逸な
作品だと思います。個人的には、直接事件に関わる主人公と恋人との関係をもう少し
精細に描いて欲しかった気がしますね。ちょっと薄かったような・・・

 +++update:2001/11/10+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

ボーダーライン                            ☆評価
[著者] 真保 裕一
[出版] 集英社
[内容]

握手をするように人を殺す男。一歩踏み出したらもう戻れない。
欲望の街・ロサンゼルスを彷徨する探偵・永岡修。
地獄を見た親子を追い、人の心の砂漠を目撃する。
世紀末を斬るハードボイルド巨編。

[感想]
これぞ探偵小説という感じです。最初の頃はダラダラと流し読みしていたのですが、
徐々に主人公とシンクロして、知らないうちに探偵気分になっていました。
アメリカという舞台が影響しているのか、最初は、慣れるまで文章に古臭さみたい
な違和感を感じました。これも雰囲気を崩さない為の作者側の意図なのかもしれま
せんね。

推理要素は薄く、探偵が犯人を追い詰めていく、文字通りのハードボイルドです。
以前に読んだ「ホワイトアウト」のような冒険的な楽しさがあります。
特徴としては、主人公である探偵の考え方を、精細に描いていることでしょうか。
一見、冗長かと思われる、この描写に拘りを感じました。

人間は生まれながらにして、心に傷を刻み込まれている場合が有るのではないか
という、深いテーマを扱っています。犯罪学や心理学では、解明できない心の中を
解き明かしたいと言う、永遠のテーマをうまく融合した作品だと思います。

少し惜しいのは、もう少し探偵小説ならではの。スリル感が欲しかった気がします。
この点は以前の「ホワイトアウト」と比較して言えることですが・・・
まあ、ジャンルも違いますから一概には言えないかもしれませんが。
その他では、主人公の恋人のことを、もう少し踏み込んで描く方が良かったのでは
ないかと思います。いまいち、本編との関連性が薄い気がしました。

 +++update:2001/11/22+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

MAZE                                  ☆評価
[著者] 恩田 陸
[出版] 双葉社
[内容]

ここはアジアの西の果て。深い谷を越えると突然、白い荒野が現れる。
丘の上にはその昔「存在しない場所」または「あり得ぬ場所」と呼ばれる、白い矩形
の構造物があった。これまでに何人もの人間がそこに入り込んだきり戻ってこないと
いう、曰くつきの場所である。
そして、長い長い歳月が経ち…時は現代。
神原恵弥、時枝満、スコット、セリムの4人がこの地へとやってきた。
ミッションは「人間消失のルール」の謎を解き明かすこと。

[感想]
おきらく〜♪・・・に読めた1冊でした。恩田さんの作品は、初めて読んだんですが、
内容は冒険ホラー小説みたいな感じです。著者は、ホラーミステリーが有名みたい
なので期待していたのですが、衝撃力は今ひとつという感じでしたね。

「存在しない場所」として、人が消えてしまう恐ろしい場所の謎を解明するという、
非常に怖そうな話なので、ホラー要素を期待していたんですが、いまいち薄かった
です。でも、冒険探検小説みたいな感じに仕上がっていて、これはこれで良かった
と思います。あと、迷路の謎にもう少し仕掛けが欲しかったかなと感じました。
主人公が謎を解き明かす過程は楽しいんですけどね・・・

ラストの展開に説得力が無かったのがちょっと残念でしたが、200頁程度の内容で
気軽に読めるところは、最近の長編が多い中ではクールダウンにはぴったりと言う
感じがします。この本は、結構読みやすかったので、別の恩田作品も読んでみたい
ですね。

 +++update:2001/11/27+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

不夜城                                  ☆評価
[著者] 馳 星周
[出版] 角川書店
[内容]

新宿・アンダーグラウンドを克明に描いた気鋭のデビュー作!おれは誰も信じない。
女も、同胞も、親さえも…。バンコク・マニラ、香港、そして新宿―。
アジアの大歓楽街に成長した歌舞伎町で、迎合と裏切りを繰り返す男と女。
見えない派閥と差別のなかで、アンダーグラウンドでしか生きられない人間たちを
綴った衝撃のクライム・ノベル。

[感想]
歌舞伎町を舞台にして黒い裏の世界が克明に描かれていて、確かに面白かったん
ですが、中国人の名前に難しい漢字が多いので読み辛かったです。カタカナで書い
てくれていればもう少しスラスラ読めたのかなと言う気がします。ストーリーは、十分
面白いですから、この点で思考が中断してしまうのが私としては、不満でした。
読みやすさは、気分的に読み終わってからの爽快感に影響しますからね・・・

マフィア同士の派閥争い、殺し屋との銃撃戦、巧妙に仕組んだ罠、謎の女性との
騙しあい等、見所はたくさん有り、また状況描写も鮮明で上手です。
又、SEX描写がこの手の作品にしては、精細に描かれていて好感が持てました。
息を呑む緊迫した場面も有り、この手の抗争物として映画化されるのも納得ですね。
映画は観てませんが・・・。この本もそうですが、主人公にどれだけ感情移入できる
かで、その作品の面白さがかなり違ってきます。その点で言えばこの作品は感情
移入しにくかったのが残念です。どうも第3者の視点から読まされている気がしました。

この物語内で、鍵となる女性が登場するのですが、その女性は自分以外は誰も信用
できないのです。同じような性格の主人公と出会っってしまった為に、後半である行動
を起こしてしまうんですが、この緊迫感のある結末がより寂しさを助長していました。
もし、極度の緊張状態に陥っており、人を裏切らないと生死に関わるような場面では、
どんな人間でも心の奥に潜んでいる本能に従って行動するのかも知れませんね。

ジャンルで言えば、ハードボイルドと犯罪小説の混合みたいな感じの作品でした。
 +++update:2001/12/05+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

六番目の小夜子                           ☆評価
[著者] 恩田 陸
[出版] 新潮社
[内容]

とある地方の高校に伝わる奇妙なゲーム。
三年に一度、学園祭で行われるそのゲームは、学校の運命を占えると言われていた。
ゲームは一人の生徒によって行われる。
その生徒は「サヨコ」と呼ばれ、十数年間、秘密裡に受け継がれていた。
「六番目のサヨコ」の年、一人の転校生がやってくる。名前は津村沙世子。
それは不慮の事故死を遂げた「二番目のサヨコ」と同じ名前だった。

[感想]
恩田さんの伝説のデビュー作と言われている作品です。ジャンルはホラーかな?
で、感想ですが、ん〜、想像力が乏しい私には、合わなかったみたいです。
なんか、ホラー、ミステリー、青春小説、どれも中途半端な感じがしました。
いまいち、納得がいかない結末が、もどかしく感じました。
まあ、その、曖昧なところが、怖いと思えなくもないですが・・・

確かに、この小説より怖い話は、いくらでも有るので、インパクトに欠けたのは、
否めないですね。もう少し前に読んでいたら違った感想になったかもしれません。
本格的なミステリーが好きな私には、疑問が残る内容でした。なんかスッキリしない
ところが、「はっきりしてくれよ!」って言いたくなったのは、私だけでしょうか?
でも、高校生の日常生活を、瑞々しく描いた内容に、なんか懐かしさも感じました。

この様な作品に、新鮮さを感じなくなってきているのは、心が濁っている証拠なの
かもしれませんね。ちょっと悲しいですが・・・
この作品は、ビデオやDVDにもなってる様なので、一度観てみようかな・・・

 +++update:2001/12/11+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++