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天に高く 地に深く
ブランド nuko 評価
ジャンル 青春ビジュアルノベル 発売日 2005/03/21
OS Win95/98/Me/2000/XP 価格 1300円
HDD 540MB以上 メディア CD-ROM
原画 石川寛之(ぬこすけ) キャラデザ 堀部秀郎
シナリオ 石川寛之(ぬこすけ) 音声 無し
モード CG、音楽鑑賞 プレイ時間 約9時間
備考 全年齢対象同人ソフト

はじめに
パッケージから、EVEシリーズみたいな近未来ハードボイルドを予想したのに…

突撃結果
予想外に人間味溢れる臭い青春ドラマしてましたね。でも、楽しめました。

あらすじ
西暦2019年、秋、東京。高さ150メートル有余の無人建造物に誘われるようにして、8人の男女は出会った。天と、地と、その狭間で、彼らは互いを見つめ、自らを見つめる。そしていつしか、ここでの時間は日常へと変わっていった。

シナリオ
天に向かってそびえたつ怪しげな廃ビルを舞台に、悩みを抱えた人間達の青春群像劇が展開されます。廃ビルという互いに惹かれあうようにして偶然出来た接点が重要な役割を果たし、自分自身を見つめ直すきっかけとなります。本作では美少女ゲーム特有の奇跡等の空想を多用せずに普通の日常を描くことによって、身近でリアルな世界観の構築に成功しています。

斬新なのはザッピング方式で主要キャラ8人の視点が頻繁に入れ替わること。これだけ人数が多いと違和感無く整合性を持たせるのは大変だったでしょうね。その点、この作品はよく練られていて感心しました。テキストは哲学的というか説明が多く、堅苦しくてとっつき難いです。でも、このシリアスで陰鬱とした雰囲気は好きですね。

序盤は掴みが甘いというか起伏が少ないのでダレるかもしれません。でも、根気良く読み進めていると、後半になって徐々に伏線が回収されていきます。彼らが不安を抱えて現実を受け入れられない理由が鮮明になっていくのです。一旦嵌るとエンディングまで自然に誘導されるでしょう。世代が異なるキャラ達の心の深遠にまで踏み込んだ綿密な心情描写は、独自の雰囲気を醸し出し物語を飽きさせません。

各キャラが持つ暗闇の部分を小刻み見せる手法は上手いです。人の内面に隠された狂気をジワジワと紐解いていく感じでしょうか。先が気になる読ませるテキストは新鮮でした。多くの人は過去のトラウマみたいなものを持ち合わせ、気付かずに心の奥底へ封印しているのかもしれませんね。過去に起きた辛い出来事も、例え時間と共に記憶が薄れることはあっても、衝撃が強いほど潜在的に残るというのは納得できます。

ただ、ちょっと端折りすぎで説明不足な点もありました。敵対していた人達が違うシーンではいきなり普通に接してたり。いつ和解したの?って感じるシーンもありました。あと、全体的にパンチ力不足が目立つかな。これと言った見せ場もなく収束していくのは、呆気ない感じでちと物足りないかも。終盤にもっと衝撃的な演出があれば、読了後に余韻を残す意味でも効果的だったかもしれません。もう一押し欲しかったですね。

システム
ほぼ一本道で選択肢なしのビジュアルノベル。説明シーンでは画面全体にテキストが表示され、会話シーンではメッセージウインドウに表示されます。ちと、白っぽい背景とテキストが重なることが多くて見難いです。もう少しフォントと背景のバランスを考慮して欲しかったですね。

ツールはフリーソフトの吉里吉里を使用。お世辞にも使いやすいとは言えません。まぁ、順番に読むだけなんでそれなりには使えますが、バックログのフォントが小さすぎて見辛いのは致命的。行間も詰まりすぎ。これは殆どの人が使う気を無くすでしょう。ビジュアルノベルの性格上この機能は必須なのでマイナス要素となります。

グラフィック
イベントCGは差分を除いて32枚。同人にしては結構綺麗に仕上がってますね。少なくとも同じ全年齢対象の「ひぐらし…」には勝っています。

女の子の絵に萌えが足りないというか、いまいち可愛くないんですよ。構図によっては丸み不足が目立って、カクカクしたポリゴンキャラみたいに小太りになってたり…。特に沙織の顔がやたら横に太くて四角い感じに描かれていて、バランスの悪いイベントCGがちと気になりました。塗りが綺麗なだけに勿体無いですね。

美少女ゲームって、原画とキャラデザ担当が同じ人の場合が多いのですが、本作は別々ですね。その辺のバランスも関係してるのかなと思ったり。ぶっちゃけ、おまけシナリオのデフォルメキャラの方が萌えるかも。(笑) あぁ、美青年はカッコイイですね。ボーイズラブにした方が人気出たりして…。(何)

背景は薄暗くダークな色彩で統一されていますがシンプルな感じのものが多いです。近未来が舞台という設定が活かされず、風景に現代との違いが感じられないのも残念。まぁ、寂れて過疎化した雰囲気は出てますが。開発が手付かずといっても学校や病院は普通に運営されてるように見えるので、SFとまではいかなくても、少しぐらい先進的な設備が導入されていた方がビジュアル的に見栄えは良かったかも。

立ち絵は表情の変化が地味で寂しいです。もっとバリエーションを増やした方が、感情表現が豊かになってテキストも生きてくると思います。OPムービーは歌がないのでアッサリした印象を受けましたが、同人としては良くできています。

サウンド
一部の曲しか鑑賞モードで聴けないのは残念。ギターサウンドとピアノ中心のシンプルなメロディで、無音で進行する場面も多くて全体的に地味な感じ。ひっそりと流れるBGMの不気味さは物語にマッチしてるけど何か物足りない。効果音も地味。ボイスが無い分、もう少し派手なBGMと効果音で盛り上げて欲しかった。

キャラ
お気に入りは特に無し。男性キャラは良太と拓人の中学生コンビが無邪気でいい味だしてたね。大学生組の早見優は典型的なナイスガイなのに影が薄かった。ちょっと口の悪い洋平の方が濃い味出してたかも。

島凪夕紀 [しまなぎ ゆき] (30%)
大学3年生。明るく大人っぽい性格。
他人とは常に距離をとり、自分の気持ちに素直になれない。

高島沙織 [たかしま さおり] (30%)
高校3年生。クールで愛想が悪い。儚げでミステリアス。
両親の死をきっかけに心を閉ざす。

相田 恵 [あいだ めぐみ] (40%)
高校一年生。沙織の妹。自称、不良娘。他人の名前を捏造する天才。
恵タンとなつみんの、いけない絡みイベントが欲しいかも。(マテ)

千堂千夏 [せんどう ちなつ] (20%)
中学2年生。かなり鈍いボケボケちゃん。幼馴染の拓人に好意を抱く。
イベントCGが少ないので、眼鏡っ娘推進委員会から抗議されるかも。
つーか、危機センサーが半径20センチって…。(笑)

総評
後味は悪くないけど、のど越しが物足りない生ビール。でも、飲み慣れたら何杯でもいけそうな、風変わりな旨味成分配合みたいな感じ。

この作品はかなり人を選ぶでしょうね。嵌った人は満足するだろうけど、万人が読んで面白い作品かと聞かれると疑問が残ります。特に巷の美少女ゲームに侵されてひたすら萌えを追求する人には、ジャンルが180度違うのでお勧めできません。

シナリオ自体は地味ですが、どこか味わい深い風味がありますね。こういう美少女ゲームの枠に捕らわれない変質的な作品も有りでしょう。恋愛ノベルという既に雛形化したジャンルの幅を広げる意味でも、今後も斬新な作品に挑戦して欲しいですね。新作にも期待してます。

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天に高く 地に深く

update:2006/04/28
シナリオ システム CG 音楽 萌え ザッピング
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