タイトル | 青の炎 | 評価 | 8 |
著者 | 貴志 祐介 | 出版 | 角川書店 |
[内容] 光と風を浴びて、17歳の少年は、海沿いの道を駆け抜ける。 愛する妹と母のために―。氷のように冷たい殺意を抱いて。 人間の尊厳とは何か。愛とは、正義とは、家族の絆とは―。 熱き感動を呼ぶ現代日本の『罪と罰』。 [感想] 凄く面白かったです。 ジャンルは、青春犯罪小説になるのかな。と言っても主人公である少年が完全犯罪に挑戦する内容なので、謎を解き明かしていくのでは無く、その犯罪が起こる過程を主人公の視点から追っていく形式になっています。氷の心に徹する少年が、どのような理由で完全犯罪に至るのか、そして、少年が考えた巧妙なトリックも見所の一つです。 トリックを生み出す過程も非常に興味深かったですし、その中で揺れ動く少年の心理描写も巧みに表現されていて凄く感情移入できました。この少年を取り巻く環境についても日常会話を通じて上手く説明されていました。又、同級生の紀子との初々しいラブラブなシチュエーションも、殺人と言う強烈な内容に絶妙なスパイスとなって、無意識のうちに、この物語に嵌っていきました。 本書も、貴志祐介氏特有の柔らかくて読み易い文章で書き上げられており、毎度の事ながら飽きることなく魔法にかかったようにスラスラと一気に読んでしまいました。いつも、この執筆力には驚かされます。この著者なら恋愛小説も無理なく書けるのではないでしょうか。 殺人を犯すということは、決して許されることでは無いでしょうが、そこに愛する家族が危険にさらされるという、やむを得ない理由が存在したらどう感じるでしょうか。 その状況を打破する為に自ら汚れ役を引き受け、勇気ある強行手段を取った少年を責める事が出来るでしょうか。少年が心の中で「自分は許されるのか」と何度も問いかけ、苦悩する様子が、ひしひしと伝わってきました。 殺人を「強制終了」や「寄生虫を排除する」等と置き換える、作者特有の表現方法も注目されます。このように、機械的な言葉用いることにより、読者に恐怖心を抱かせることに成功しているかと思います。このような手法は、「天使の囀り」でも使用されていました。 「殺人を犯した」という現実を受け止めた時の苦悩。 「逮捕されるのではないか」という不安。 「一生消えない悪夢と向き合って生きる」という恐怖。 少年の心を蝕んでいく様子が、物語とのシンクロと共に痛烈に伝わってきます。 最後の警察との全面対決での、息を呑む展開にも引き込まれていきました。 又、その時の周りの人達の支えも感動を呼びます。 しかし、「鯖」や「串」等、インターネットに関するマニアックな用語が登場する辺りは、作者の趣味なんでしょうか。(^^; とにかく、ホラー作家である貴志氏が、このような本も書かれるとは以外でした。 作者の新たな一面を発見できて良かったです。 +++update:2002/04/23+++ |
タイトル | 誘拐ラプソディー | 評価 | 8 |
著者 | 荻原 浩 | 出版 | 双葉社 |
[内容] 世話になった工務店の親方を口論の末に殴り倒し、金と車を盗んできた伊達秀吉38才。もう、彼に残っているのは320万円の借金と前科だけだ。死に場所を探してウロウロしていたところで金持ちのガキを発見する。突如訪れたチャンスに誘拐を実行したのだが、そのガキはヤクザの息子だった。一転して恐怖で身体が凍る秀吉。果たしてその運命は…。 たっぷり笑え、しみじみ涙するノンストップユーモアクライムストーリー。 [感想] 自殺を覚悟して死にきれなかった気の弱い男が、一人の子供と協力してヤクザから逃走する痛快冒険ロマン? やがて二人は息の合ったコンビとなり深い絆で結ばれる。 暴力団、香港マフィア、警察が絡み合った息を呑む駆け引きが楽しく飽きずに読了。 涙はしなかったけど、面白かったです。久々に笑える小説を読ませて頂きました。 とにかく、主人公の「秀吉」とガキの「伝助」のやり取りに爆笑。 シモネタおやじギャグが絶妙。これ、ネタは古臭いけど笑えたね。 荻原さんのユーモアセンスを実感できました。 ヤクザに追われる秀吉がギリギリのところで、いつも生き延びるストーリー展開なのですが、これがハラハラドキドキの連続で面白可笑しく描かれています。 この伊達秀吉と言う漫画みたいな濃いキャラが、いい味だしてました。 また、この主人公の秀吉がドジでマヌケでお人よしと、憎めないキャラなんですよ。 もちろん、伝助もボケキャラとして最高のパフォーマンスを披露。(笑) たまには息抜きに、こんな本もいいかもね。気軽に読める一冊。 +++update:2002/05/19+++ |