よくある近未来を舞台にしたSF戦闘モノかと思いきや、実はそんな生温い王道は仮の姿だったりする。洗脳という辛口香辛料を丸ごとぶっかけて読者のゲーム脳を刺激する、真性の鬼才がそんな生半可な物語を描くハズが無い。相変わらず、本作もメッセージ色の強い作品だ。
「悪の教科書」のような強烈な説教がなくスラスラ読み進められるので、精神衛生上の負荷は軽減されている。万人向けに敷居を下げた分、物足りなさを感じる輩もいるかもしれないが、エンターテイメント性を織り交ぜながら、随所に洗脳用語を埋め込んで、誰でも楽しめる物語に調理した手腕は一見の価値あり。
一握りの独裁者達による完全無欠の洗脳支配。例えエキストラでも数は力なり! 敵勢力の圧倒的優位が揺るがない勝ち目のない戦争。心を破壊された無味乾燥の大群を扇動するのは不可能。もはや起死回生の策なんてあるハズがない。
言わば「まったく、夢もキボーもありゃしない!」世界だ。
そんな理不尽な状況の中、運命が重なって起きたバグとも言える少年。難解に暗号化されたロジックを徐々に紐解き、彼に対し積極的に人間的思考を促す人達。時間を共有する内に、仲間意識が芽生え人の温もりで包み込もうとする戦士達。些細な変化の積み重ねが必然とも言える奇跡を起こす。
泥沼に陥り圧倒的不利な孤立状態で、なお自由を主張して生き抜く姿は、個々の意見を持たずに世界の顔色をうかがいながら、要領よくぬるまゆに浸かることに慣れきった現代日本と相反する、封印されたサムライを具現化している。まぁ、お約束のように転生して真の自由を勝ち取るとか無茶をしないだけマシかもしれない。
曖昧に彷徨って生きる鎖を断ち切り、麻痺した思考を矯正するのは勇気を持って一歩を踏み出す覚悟が必要だろう。自身が感じた自由な想いをさらけ出して主張することは、希望に満ちた心豊かな世界の土台を築くことになるのかもしれない。説得力のない規制を打ち破って個々が前向きに立ち上がる。そんな些細な事象の積み重ねが新たな歴史を刻むのかもしれない。
ツールは吉里吉里。一本道のオーソドックスなADVで特に問題なし。既読スキップは普通。バックログあり。1週目は選択肢なし。2周目に選択肢が出てくるが、本作の趣旨を考えて自由を求めていけばクリアできる。
イベント絵は差分を除いて12枚。背景もきっちり描かれているし、CGは綺麗だね。演出も凝っていて良かった。
全15曲。突出したインパクトはないけど特に問題はない。幻想的な曲が多いかな。「唯春の夜の夢」は、哀愁漂う落ち着いた曲で癒されるね。あと、「理想郷症候群」がかっこよかった。イース2のOP曲みたいなテンションが好き。
主人公は萌えキャラ?・・・かも(笑) ショタ属性をくすぐる虚弱体質がいいね。
普通の近未来SF作品みたいに面白く読みやすかった。巷に溢れた作品同様に、まろやかテイストに仕上げてあるので万人向けかもしれない。自由とか生きる意味を問うという点は「悪の教科書」に通じる部分があるが、直線的な表現を避けオブラートに包んであるので極端なアレルギー反応は出ないだろう。本作にこめられたメッセージを、どのように解釈しようが個人の自由だと思う。それぞれ意見が分かれるところに個性があるのだから…。
(JavaScript有効時)