異なる4つのストーリーからなる「死生観」と「日常」がテーマの物語です。非常にメッセージ性が強い作品ですがネチネチした鬱展開は無いです。詳しく分けると下記の(1)〜(3)がホスピスを題材にした現代物語で、(4)だけ特殊なファンタジーとなっています。といっても死を安易に受け入れるのは難しいことです。この物語では当事者の苦しみや葛藤から僅かな希望への祈り、そして自分の死に様について、涙腺を刺激する友情恋愛要素を交えながら深く描いています。
おまけの「−姫子エピローグ−」も感動的でした。これだけボイスが無かったのは残念ですが。このおまけ以外にもナルキ1・2と時間軸が重なるシナリオがあるので、これらを事前に読破しておくとニヤニヤ出来るシーンもあります。あと差分ファイルを当てるとプロダクトから「1993」というノベルが読めます。これはノンフィクションなのでしょうか? とにかくお勧めです。
(1)「死神の花嫁」 ごぉ (85点)
テキストは読み易くたたみかけるようなリズム感は健在。死生観なんて綺麗ごとではなく、大切な人を救えない不甲斐ない自分と、避けられない現実に真っ向からメスを入れる素直で心に響く描写。愛する人の希望を受け止め運命に逆らう行動力に漢の生き様を見た! まぁ、どこかで見たような展開だけど綺麗にまとまってたね。まさに、氏が頭角を現した「ひまわり」という作品のオーラを引き継いだ魂のシナリオ。
(2)「-Ci-シーラスの高さへ」 酸橙ひびき (70点)
ちと話のバランスが悪い気がする。視点切り替えを多用したザッピング風味テキストで序盤から妙にテンションが高い。くだらない凍えそうなノリツッコミが永遠と続きます。この、面白みの無いまったりコント展開はウザすぎw。でも、終盤に見せ場は用意されています。序盤とは対照的なまるでサスペンスドラマのようなシリアス展開。困難な状況下で積極的に自分を変えていく前向きさに救いを感じました。
(3)「メサイア」 早狩武志 (80点)
流石にベテランの味とういか読みやすいテキスト。同情を嫌う長髪青年の患者とエリート医師。二人のバイク乗りの友情物語。安易なハッピーエンドは許さないミスリード誘発シナリオは、ちと強引だけど良かった。痛くて重苦しい話の中で死について考えさせられる。このいきなり突きつけられた現実に人間らしく苦悩するのは当然のこと。家族の温もりに包まれながら、その想いが引き継がれる感動シナリオ。
(4)「小さなイリス」 片岡とも (80点)
ねこねこソフト「銀色」の世界再臨。氏が持つ独自の詩的センスは今回もテキストに具現化してます。他の三つのシナリオとは時代設定が違う為、ひときわ異質な輝きを放ってます。物語は中世を舞台にしたファンタジー。運命に翻弄される命を自らの意思で繋ぎ止める小国の姫。そして、生きる為の容赦の無い殺戮。その冷淡で人間らしさを失った言動の奥に垣間見る生への執着。暗い中にも、自分の死に様を捜し求める傭兵との出会いによって、救いの道が切り開かれるハッピーエンドは良かった。
大きな問題は無いです。「死神の花嫁」のみ選択肢が出てきますが、基本的に読むだけの一本道のノベルです。既読スキップは使わなかったです。バックログはホイール対応で音声再生可。ジョイパッド対応。ディスクレス可。フルスクリーンモードが記憶されないのは不便。CG鑑賞モードが無いのと、フォントが小さくて読み難い仕様が改善されていない点は残念です。
背景はアッサリと淡い色彩の同人臭いクオリティ。基本的に立ち絵が無く、挿絵風のイベント絵で紙芝居のように見せていくサウンドノベル形式です。キャラデザは癖のあるぷちロリ絵で萌え系では無いですね。ただ、本作のイメージとは微妙にマッチしていないような気がします。立ち絵が無いだけに日常会話での表情が分かり難いのですが、テキストで十分にカバーしているので脳内補完は可能です。
何気に「小さなイリス」は中世ヨーロッパ風の雰囲気が渋く表現できていて良かったと思います。殺戮シーンのグロ描写は背景が流血するぐらいで、控えめだったのは物足りないかな。
ナルキッソス特有の切なく悲しい音楽は健在。相変わらず、ピアノやオルゴール系の琴線に触れる癒し系の曲で構成されていて高クオリティです。特に主題歌の「光降るなら」は、幻想的な雰囲気にしっとりと包まれた良曲ですね。久しぶりに聴いたスカーレットも良かったです。あと、殺戮シーンの効果音は臨場感が凄いです。
お気に入りはチサトかな。ろり〜なキャラデザもいいですがノリが良いので。ボイスではイリスのボソボソっとした喋り方が上手かった。クールなお姫様と見事にマッチしてました。最初、セツミの声かと思ったけど違う声優さんだったとは…。男性キャラでは久也がいい味出してました。
◆安佐乃海璃(あさの みり) CV:水瀬沙季 <40%>
天使と呼ばれた明るい元看護士。
◆楠木ちさと(くすのき ちさと) CV:後藤麻衣 <50%>
ノリが良く明るい性格を演じる少女。
◆イリス CV:平井理子 <30%>
人間らしさを失った小国の姫。。
同人作品としては、内容、コストパフォーマンス共に秀逸。ナルキッソスの世界観を踏襲しながら、4人のシナリオライターによって多彩な物語を堪能できる見事な仕上がり。死生観を題材にした作品に泣きはつきものですが、それは本作でも当てはまります。難しいテーマですが考察好きのシナリオ重視派に是非体験して貰いたい逸品です。例えば「加奈」や「銀色」をプレイして感動して何か感じた人なら、本作を読んでも損はしないと思います。
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